寝たきり高齢者などの介護者へ

月5万円の介護手当の支給を

 99年5月27日 

辻ひで子議員が在宅老人介護手当支給条例案を提案    

 私は、日本共産党大阪市会議員団を代表して、ただ今上程されました議員提出議案第8号「大阪市在宅老人介護手当支給条例案」について、ご説明申し上げます。  
 まず、条例案の内容でありますが、在宅で3カ月以上寝たきりになっておられます高齢者を介護されている場合や、痴呆性の高齢者がご家庭におられる介護者の方々の負担を少しでも軽減し、激励するために、月々5万円の介護手当を支給するというものです。 介護手当支給条例の提案は今回で27回目となります。  
 次に提案理由を申し上げます。  

 虚弱な高齢者を介護する体制保障は国民の切実な願い  

 第1に、高齢化社会が急速に進み、国民的に高齢者の公的介護を求める声が高まってきています。
 すでにご承知のように、老人福祉法は「老人は、多年にわたり社会に貢献してきた者として敬愛され、健全で安らかな生活を保障されるものとする」と定められています。  
 私ども日本共産党は、憲法及び、老人福祉法の理念を実現することは、国や地方自治体の責務だと考えています。この理念に添って、高齢者が健やかな老後を過ごすことのできる条件整備を着実に行うこと、中でも、虚弱な高齢者を介護する体制を保障することは、介護する家族は言うに及ばず、今や国民の切実な願いとなっています。  
 いよいよ2000年4月からスタートする介護保険は、高齢者福祉の仕組みを保険方式に切り替え、介護サービスの費用の半分を保険料でまかなう方式です。  
 又、措置制度から、契約制度へ転換させて国庫負担増大に歯止めをかけ、各自治体に実施責任を押しつけるとともに、サービスの拡大を理由に福祉の分野に企業参入の道を大きく開くものとなっています。  
 介護保険の保険者は市町村であります。大阪市民の老後の保障は、保険者である市長の裁量と決意にかかっていると言う事になります。
 ところが今の状況では、特養など基盤整備にしても、保険料や利用料にしても、市民の期待に応えることができないばかりか、現在の福祉水準すら後退させることになりかねません。こういう中で家庭で介護している皆さんのご苦労に報いるために是非とも介護手当が必要なのです。  

        市予算のわずか0.1%で介護手当は実施できる  

 第2に、各政令都市における「介護手当」の実施状況を見てみますと、実施時期の違いはあっても現在ほとんどの政令都市で実施されています。いまだに家庭介護者に「高齢者介護手当」がないのは福岡市と大阪市だけです。  
 財政的にも、大阪市の場合、わが党の試算では40億円で制度化できます。大阪市の予算規模は4兆円で、40億円と言えば、そのわずか0、1%にすぎません。  
 大阪市の財政力からすれば、1日も早く実施に踏み切るべきです。  

       「どちらかが倒れたら」と介護する家族の大変さは深刻

  第3には、介護手当を望む市民の切実な現実があります。中央区を例に申し上げますと中央区は、戦後13万人まで人口が回復しながら、現在ではその人口も5万人台に激減し、人口構成に占める高齢化率は18、5%、そしてその中に占める75歳以上の後期高齢化率は44、2%と24区中トップとなっています。  
 医療、福祉の後退や、長引く不況の中で、寝たきりや痴呆症状のある高齢者を介護する家族の大変さは「経験しなければわからないでしょう」と言われるほど深刻になっています。  
 私は、介護福祉士として、高齢者の介護にかかわる数多くのケースを見てきました。  
 林立するビルの谷間で障害を持ちながらひっそりと暮らす老夫婦が「どちらかが倒れたら、生活の見とうしがたたない」とつぶやいておられたことに胸が痛みます。  
 中央区谷町6丁目の62歳の奥さんは、筋萎縮症で15年間も寝たきりの生活を送っておられますす。ご主人と義理のお母さんが主たる介護者でしたが、ご主人は定年後2年も経たないうちに癌でお亡くなりになり、94歳の義理のお母さんも3年前に寝たきりの状態になられました。
 訪問をしてお話しを伺いますと、「自分は病気で寝たきりの状態、夫をなくしたあと、母に痴呆症状がでて寝たきりになる前の2年間はもう本当に大変だった、頻繁にトイレに行きたがる、痴呆が出てきたときは訳のわからない事を口走り一時も目が話せない状態、夜も寝させてもらえない状態が続いた」との事でした。今は「遺族年金と、夫の残した蓄えで生活を維持しているが、先行きが心配だと」訴えておられました。ヘルパーさん以外に家政婦さんにきてもらい、自宅での介護を望んでおられます。  
 また、中央区法円坂住宅にお住まいの91歳のご主人は、現在87歳になる奥さんの介護をされています。奥さんは1昨年急に食欲がなくなり、体力が低下し身の回りの事が出来なくなったとの事です。しばらくの入院後自宅介護となり、ベットを入れ、自宅のお風呂を改装して、奥さんの面倒を見る事になりました。自らの体力の衰えがある中での介護にしばらくは誰にも、何もいえなかったとおっしゃつていました。結婚して65年、子供がいない。親戚も遠い。「男子厨房には入るべからず」の時代に生きた者として突然妻に倒れられこれまでの介護の苦労はとても口では言い表せないと、最近になって胸のうちを語ってくれるようになりました。区の特別養護老人ホームに申し込みをしたが、100人待っていますとの返事だったという事です。  

       在宅での介護を余儀なくされている人達が増えている

  このように、要望の高い特別養護老人ホームは、市全体で昨年末で、待機者が5、122名もおられます。最近では調査する度に、入りたいという希望者が増え、ベット数を上回っているのが現実です。  
 これはすなわち、在宅での介護を余儀なくされている人達が増えているという事です。寝たきりや、とりわけ痴呆の高齢者の在宅での介護は、ご紹介を致しましたように家族にとっては24時間、毎日、毎日休みなく続くのです。  
 これは介護保険が導入されても、24時間ホームヘルパーの体制が整っても、寝たきり、痴呆高齢者の介護者にとっては、大幅に軽減されるということにはなりません。  
 いま、介護者の精神的、経済的負担の軽減をはかる事と、「家族に迷惑を掛けて申し訳ない」という介護を受ける本人の負担意識を軽減する事は、介護の実態からして切実に求められています。  
 行政として、在宅での介護を支援する事は政令指定都市の中で、財政力のある大阪市に出来ないはずはありません。  
 行政としての姿勢が問われている問題だと考えます。先ほども触れましたが、今回で27回目の提案、他都市でも既にやっている事をやろうというだけの事です。  
 他の施策がすすんでいるというならともかく、遅れている大阪市の水準を少しでも引き上げ、切実な市民の期待に応えるべき時期にきているのではないでしょうか。  
 以上で、条例提案の理由と、内容のご説明をさせて頂きましたが、市民みなさんが心待ちにされているものです。  
 議員のみなさん、人は皆、必ず老いを迎えます。避けて通る事は出来ないのです。高齢期の安心と、介護者のみなさんに行政としての支援をお示し頂きたいとかんがえます。 この介護手当支給条例に、議員各位のご賛同をこころから訴えまして、提案説明とさせて頂きます。  

        大阪市在宅老人介護手当支給条例案

 (目的)  
第1条 この条例は、在宅老人の介護者に介護手当(以下「手当」という。)を支給することにより当該介護者の精神的、経済的負担を軽減 し、もって在宅老人の福祉の向上に寄与することを目的とする。

(用語の定義)  
第2条 この条例において「在宅老人」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。 
(1)満65歳以上の大阪市民で、居宅において引き続き3月以上臥床の状態にあり、日常生活において常時介護を必要とする状態にある者  
(2)満65歳以上の大阪市民で、居宅において痴呆の状態にあり、日常生活において常時介護を必要とする状態にある者

(受給資格)  
第3条 手当の支給を受けることができる者は、在宅老人を現に主として介護している者とする。  

(支給申請)  
第4条 手当の支給を受けようとする者は、大阪市在宅老人介護手当支給申請書に、民生委員の証明書その他受給資格を証する書類を添えて市長に申請しなければならない。

(支給決定)  
第5条 市長は、手当の支給申請があったときは、その内容を審査し支給の可否を決定し、これを申請者に通知する。

(支給更新申請)  
第6条 前条の規定により支給の決定を受けた者(以下「受給者」という。)が、引き続き手当の支給を受けようとするときは、毎年5月1日から5月31日までの間に、大阪市在宅老人介護手当支給更新申請書に第4条に定める書類を添えて市長に申請し なければならない。

(手当の額)  
第7条 手当の額は、在宅老人1人につき月額50,000円とする。

(支給期間)  
第8条 手当の支給期間は、支給申請のあった日の属する月の翌月から手当を支給すべき事由が消滅した日の属する月までとする。

(支給方法)  
第9条 手当は、毎年2月及び8月にそれぞれ前月までの分を原則として口座振込の方法により支給する。

(受給資格の消滅及び支給の制限)  
第10条 受給資格は、次の各号の1に該当したときは消滅する。
  (1)在宅老人が市内に住所を有しなくなったとき
  (2)在宅老人が死亡したとき
  (3)在宅老人が入所施設に措置されたとき
  (4)受給者が在宅老人を介護しなくなったとき
  (5)在宅老人の状態が常時介護を必要としなくなったとき

(手当の返還)  
第11条 市長は、受給者が次の各号の1に該当するときは、受給者から支給を受けた額の全部又は一部を返還させることができる。  
  (1)偽りその他不正の行為により手当の支給を受けた場合  
  (2)その他この条例の趣旨に反すると市長が認めた場合

(届出)
第12条 受給者は、次の各号のいずれかに該当する場合にはその旨を速やかに市長に届け出なければならない。
  (1)受給者又は在宅老人の住所又は氏名に変更があったとき  
  (2)手当の支払いを受ける金融機関を変更しようとするとき  
  (3)受給資格が消滅したとき

(施行の細目)  
第13条 この条例の施行に関し必要な事項は、規則で定める。

    附 則  
 この条例の施行期日は市長が定める。