乳幼児医療費助成は所得制限をなくし

 就学前までに年齢の引き上げを

 99年5月27日 山中智子議員が条例案を提案  

 私は、日本共産党大阪市会議員団を代表いたしまして、ただ今上程されました議員提出議案第9号「大阪市乳幼児医療費助成条例」案について、提案理由とその内容について説明いたします。  
 内容は、乳幼児医療費助成制度の対象を、現在通院は3歳まで、入院は6歳までですが、小学校入学前までに年齢を引き上げるとともに、所得制限を撤廃する等の改善を行うというものです。乳幼児医療費助成制度に関する条例提案は、今回で14回目です。  
 次に提案理由です。  

         「子どもを守ってほしい」と保育園長も訴え  

 今回、私がとくに申し上げたいのは、家族や子どもをめぐる現代の複雑な問題についてです。城東区にあるすみれ保育園という民間保育園の園長先生にお話をうかがいました。ここ数年急激に母子家庭・父子家庭が増え、現在同園全体の約2割、クラスによっては半数の児童が母子・父子家庭だそうです。なかでも、協議中などで手続きは済んでいないが、実態としては離婚状態で母親一人で育てているというケースが非常に多くなっていますが、保育料の軽減措置もなく、家賃の高さなども複合的にのしかかり、くらしが非常に不安定になりハラハラするケースがたくさんあるとのことでした。園長先生は、「親の生活が不安定になるほど病気も長引き、入・退院を繰り返すのが実態です。複雑になる家庭環境のなかで、子どもにしわ寄せがいく姿に胸を痛めています。この制度ができたときほんとうにありがたかったですが、ぜひ、就学前までにのばし、所得制限もなくして、子どもを守ってほしい」と話して下さいました。  

           子どもは社会にとって未来を担う宝  

 また、いま、本市に限らず、子どもをめぐる事件が頻発しています。1997年1月から1998年9月までの1年9カ月の間に、虐待によって死亡した子どもの数は全国で57人。それ以降の約半年間で26人、急増している、毎日新聞の報道です。この子たちの9割は6歳未満です。私は同年齢の子どもを育てながら、同じこの空の下で、こんなにもいたいけなこんなに愛しい、親に甘えてすがって育つはずの年頃の子どもたちが、その親から加えられる恐怖や痛み、苦しみしか知らずに命を落としていくという事実に、いたたまれない思いでいっぱいです。また、子どもを置き去りにする、子どもを道連れに心中する、あろうことかコインロッカーに“預ける”など、命に対して、とりわけ大人の庇護なくしては生きられない乳児・幼児の命に対して、あまりにもそれを軽んずるような痛ましい事件が後をたちません。ごく一部の出来事かもしれませんが、親が特異な行動をしたから仕方なかったで済ませるわけにはいかないのです。悲しい犠牲になった子どもたちに、せめて報いるみちは、行政をはじめあらゆる機関が全力をつくして、子どもは親の私物ではなく、社会にとって未来を担う宝であり、かけがえのない命だということをすみずみに行き渡らせ、二度と同じような犠牲者を出さないことではないでしょうか。  

          医療費助成制度は親を支え、励ますもの

 本市で実施している乳幼児医療費助成制度は、その点からも、親としての第一歩を踏み出した人たちを支え、励ますものとして大きな意味があると考えます。  
 私事ですが、私は、1993年5月に長女を出産しました。同年10月から、0歳児の医療費助成制度が始まり、約半年間、通院の際に乳幼児医療証を使用しました。親が子を力の限り守り育てることは当然ですが、初めて医療証を手にしたとき、これを使うとき、大阪市の援助をうけ、未来を担う子どもを育てているのだと、誇らしさや責任の重さを実感し、同時にかつてなく市政を身近に感じたことを鮮明に覚えています。  
 1歳になり、医療証がなくなり、大阪市の「がんばって育てよ」という励ましがなくなったような心細い思いをいたしました。ぜひ就学前まで年齢を引き上げるべきです。  

         半数をこえる28都道府県が、所得制限はなし  

 次に、所得制限の問題です。一昨年、私の友人でもある福祉施設に勤める看護婦さんから相談を受けました。彼女は一昨年、下の子を出産しました。前年度は夜勤などもあり例年より収入が多かったため、出産した年は、産休・育休で収入が大幅に減ったにもかかわらず、助成の対象外となったのです。上の子たちの教育費もかさみ、なおかつ、赤ちゃんが保育園に入ったとたん、発熱・嘔吐・下痢を繰り返し、入院・通院が続きました。1カ月で医療費4万円、そうそう仕事を休めないので1日4000円の病児保育を頻繁に利用し、これも月4万円、ほんとうに大変で、彼女は会うたびにやせ細り、みているのがつらい日々でした。こういうことが起こるのも、前年度や前々年度の収入を基準に、杓子定規に運用しなければならない所得制限があるからです。長引く不況のなか、失業・倒産など、収入が大幅に減ることはことは、どの家庭にも起こり得ることです。実態を反映しない所得制限は、この際、撤廃するべきです。全国をみれば、47都道府県中、半数をこえる28の都道府県が、すでに所得制限をなくし、すべての子どもが必要に応じていつでも医療を受けられるようにしています。  

     巨大開発の赤字穴埋め資金のわずか3%で改善できる  

 一人の女性が一生の間に産む子どもの数の全国平均は1948年(昭和23年)4.4人でしたが、1997年には1.39人。大阪市は1995年ですでに1.29人、全国平均を下回っています。「少子化への対応を考える有識者会議」という首相の諮問機関がありますが、この有識者会議の報告でも、乳幼児医療費無料化をすすめていくことを提言しています。  
 少子化に歯止めをかけるうえで有効だと首相の諮問機関が提言し、本市でも実施以来6年間、親を大きく励まし、医療機関、保育園など子どもに日常的にかかわる人たちに歓迎されているこの制度を、就学前までにひきあげ、所得制限をなくすために必要な予算は31億円と試算されています。大阪市は巨大開発の赤字の穴埋めに
945億円もの公的資金を投入しようとしていますが、そのわずか3%あればできる改善を、はっきりした理由も示さず実施をしない態度をとりつづけるのであれば、大阪市は子どもの命や幸せより、巨大開発、大企業を大切にする、との批判を免れることはできないのではないでしょうか。  

          政党支持の違いをこえた多くの市民の願い  

 議員のみなさん、近づく21世紀に向けて、子どもが減る一方ではなく、夢とゆとりをもって子育てできる環境のなかで子どもが増え、どの路地裏にも子どもの元気な声が響きわたる、そんな大阪をつくることは、政党の支持の違いをこえた多くの市民の願いではないでしょうか。孫や子が大事にされる市政を実現することを、市民は議会に期待しているのではないでしょうか。ぜひ、この条例にご賛同いただき、可決、成立させていただきますよう心からおよびかけして、提案説明といたします。どうかよろしくお願いいたします。  

        大阪市乳幼児医療費助成条例案

(目的)  
第1条 この条例は、乳幼児に係る医療費の一部を助成することにより、乳幼児の健全な育成に寄与し、もって児童福祉の向上を図ることを目的とする。

(定義)  
第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。  
(1) 乳幼児 本市の区域内に住所を有する者で6歳に達した日以後における最初の3月31日を経過するまでの者  
(2) 保護者 乳幼児を監護し、かつ、これと生計を同じくするその父若しくは母 (父及び母がともに当該父及び母の子である乳幼児を監護し、かつ、これと生計を同じくするときは、当該父又は母のうちいずれか当該乳幼児の生計を維持する程度の高い者)又は父母に監護されず若しくはこれと生計を同じくしない乳幼児を監護し、かつ、その生計を維持する者  
(3) 医療保険各法健康保険法(大正11年法律第70号)、船員保険法(昭和14年法律第73号)、私立学校教職員共済法(昭和28年法律第245号)、国家公務員共済組合法(昭和33年法律第128号)及び地方公務員等共済組合法(昭和37年法律 152号)  
(4) 自己負担費用国民健康保険法(昭和33年法律第192号)により世帯主若しくは組合員(世帯主又は組合員であった者を含む。以下「世帯主等」という。)が担すべき額又は医療保険各法その他の法令により医療を受けた者が支払うべき額(国民健康保険法又は医療保険各法に規定する標準負担額に基づき現に負担した額を含む。)

(対象者)  
第3条 乳幼児医療費(次条の規定により助成するものをいう。以下同じ。)の助成を受けることができる者(以下「対象者」という。)は、国民健康保険法の被保険者(被保険者であった者でなお継続して医療に係る給付を受けているものを含む。)又は医療保険各法の被保険者(健康保険法の日雇特例被保険者を含む。以下同じ。)、組合員若しくは加入者の被扶養者(被保険者、組合員又は加入者の被扶養者であった者でなお継続して医療に係る給付を受けている者を含む。)である乳幼児の保護者とする。  
2 第1項の規定にかかわらず、乳幼児が次の各号のいずれかに該当する場合においては、その保護者は、乳幼児医療費の助成を受けることができない。  
(1) 生活保護法(昭和25年法律第144号)の規定により保護を受けている者  
(2) 児童福祉法(昭和22年法律第164号)第27条第1項第3号に規定する児童福祉施設(知的障害児通園施設を除く)に入所している者
(3) 前2号に掲げる者のほか、国が実施する医療費公費負担制度に基づき、自己負担費用の負担を免れることができる者
(4) 大阪市重度障害者医療費助成規則(昭和48年大阪市規則第119号)の規定により医療費の助成を受けることができる者  
(5) 大阪市母子家庭及び父子家庭医療費助成規則(昭和55年大阪市規則第80号)の規定により医療費の助成を受けることができる者

(助成の範囲)
第4条 本市は、対象者に対し、次の各号のいずれかに該当する場合に乳幼児医療費の助成を行い、その助成の額は、乳幼児に係る医療については、入院医療及び通院医療に係る自己負担費用(医療保険各法の被保険者、組合員若しくは加入者(被保険者、組合員又は加入者であった者を含む。以下「被保険者等」という。)に対し保険者、組合若しくは日本私立学校振興・共済事業団から家族療養付加金が支給される場合又は法令の規定により乳幼児に対し国若しくは地方公共団体から自己負担費用について医療費助成金が支給される場合はその額を控除した額とする。以下同じ。)とする。  
(1) 国民健康保険法の規定により、乳幼児が療養の給付を受けたとき又は世帯主等が乳幼児に係る疾病若しくは負傷について入院時食事療養費の支給、特定療養費の支給若しくは療養費の支給を受けたとき
(2) 医療保険各法の規定により、被保険者等が乳幼児に係る疾病若しくは負傷について家族療養費の支給を受けたとき又は入院時食事療養費の支給を受けたとき  
(3) 前2号に掲げるもののほか、乳幼児が他の法令の規定による医療に関する給付を受けたとき

(助成の方法)
第5条 乳幼児が乳幼児医療費の助成に関し本市と契約を締結した医療機関(以下「契約医療機関」という。)において医療を受けたときは、乳幼児医療費の助成は、自己負担費用を当該契約医療機関に支払うことによって行う。ただし、当該乳幼児が契約医療機関以外の医療機関で医療を受け、自己負担費用の支払があったとき又は市長が特別の理由があると認めるときは、当該乳幼児の保護者に支払うことができる。

(助成の申請等)
第6条 乳幼児医療費の助成を受けようとする者は、その資格について市長の認定を受けなければならない。
2 前項の認定を受けようとする者は、前条第1項本文に規定する助成を受けようとする者にあっては所定の乳幼児医療証交付申請書に、前条第1項ただし書及び第2項に規定する助成を受けようとする者にあっては医療費支給申請書に、次に掲げる書類を添えて市長に提出しなければならない。ただし、市長が特別の理由があると認めるときは、添付書類を省略することができる。  
(1) 医療保険証
(2) その他市長が指定する書類
3 市長は、前項の申請があったときは、その資格を審査し、資格を認定したときは、乳幼児医療証又は医療費支給決定通知書を交付する。  
4 前条第1項ただし書及び第2項に規定する助成を受けようとする者は、乳幼児が医療を受けた日の属する月の翌月の初日から起算して1年以内に申請をしなければならない。

(医療証の提示)  
第7条 乳幼児の保護者は、契約医療機関において当該乳幼児に診療、薬剤の支給その他の医療を受けさせようとするときは、当該契約医療機関に乳幼児医療証を提示しなければならない。

(届出義務)  
第8条 乳幼児医療証の交付を受けた保護者は、第6条第2項の規定による申請の内容に変更が生じたときは、所定の異動届により、速やかに市長に届け出なければならない。
2 乳幼児医療証の交付を受けた保護者は、その資格を失ったときは、所定の資格喪失届に乳幼児医療証を添えて、速やかに市長に提出しなければならない。
3 乳幼児の保護者は、乳幼児医療費の助成事由が第三者の行為によって生じたものであるときは、所定の第三者行為による傷病届により、速やかに市長に届け出なければならない。

(譲渡等の禁止)  
第9条 乳幼児医療費の助成を受ける権利は、譲渡し、又は担保に供することはできない。

(助成金の返還)
第10条 市長は、乳幼児医療費の助成事由が第三者の行為によって生じたものである場合において、当該乳幼児が同一の事由につき損害賠償を受けたときは、その価額の限度において、助成金の全部若しくは一部を支給せず、又は支給した助成金の全部若しくは一部に相当する金額の返還を命ずることができる。
2 市長は、偽りその他の不正な手段により乳幼児医療費の助成を受けた者があるときは、その者から当該助成金の全部又は一部に相当する金額を返還させるものとする。

(施行の細目)  
第11条 この条例の施行について必要な事項は、市長が定める。

   附 則
 この条例は、公布の日から施行する