雪印乳業食中毒事件

根本原因が浮き彫りに

大阪市会議員  石川莞爾さんに聞く
             (しんぶん赤旗 2000年7月15日〜16日)

企業モラルの欠如  国のずさんな認定作業  <上> 

 13,000人を超す発症者を出した雪印乳業の乳製品による食中毒事件。これだけの被害を出したホン事件の根本原因はいったい何なのか、どうしたら再発を防止できるのか、日本共産党大阪市議団雪印食中毒事件対策委員長の石川莞爾(かんじ)議員に聞きました。

今回の事件の原因は何でしょうか。
 石川  
根本的な原因は、雪印乳業の企業モラルの欠如といいますか、毎日の新聞で報道されているように、国民を驚かせる事実が次々と明るみになっている、企業の体質が第一の重大問題だと思います。10日には、大阪市が「雪印乳業大阪工事における衛生管理状況調査結果(中間報告)」というものを発表しました。これを見ると、設備の洗浄が十分行われていなかったり、製造後出荷されずに残った製品や返品されたものを再利用して製品をつくっていた。しかも、そこには期限切れの牛乳まで混ざっていた可能性があるなど、本当に言語道断のことです。

− どうしてこんなことが事前にチェックされ、改善されなかったのかということです。この点は、どうでしょうか。
「ハサップ」認定施設での事件の重み
 石川 このことを徹底的に明らかにしないと、再発は防止できませんし、食の安全を守ることはできません。実は、この雪印乳業大阪(都島)工場というのは、本来なら食品の安全性がもっとも高度に確保されていなければならないはずのHACCP(ハサップ:=総合衛生管理製造過程)認定施設なのです。今回の事件は、その施設での事件として特別の重みをもっていると思います。

−「ハサップとはどういうものでしょうか。
 石川 
これは、そもそもアメリカのアポロ計画のなかで、宇宙飛行士にいかに安全な食品を提供するかということで開発された手法と言われています。具体的には食品の製造過程でどういう食品衛生上の危害が生じるおそれがあるかということを調査して、危害の発生を防止するためにはどのような工程をどのように管理すればいいかということを定め、重点的に管理することによって食品の衛生管理を向上させようという手法です。政府は平成7年に食品衛生法を改定して、この承認制度を導入し、認定企業にはいわば食品衛生上「優良企業」としての「お墨付き」を与えたわけです。

−今回はその「優良企業」が戦後最大の食中毒事件を引き起こした…。
認定を担当するのは専任一人、兼任五人
 石川 そうです。そこで、第一に、この認定作業はどういうものか、議会でも質問しましたが、実にずさんなものであることがハッキリしました。国はハサップの普及をすすめていますが、認定を担当するのは、選任1人、兼任5人のわずか六人です。これでは膨大な資料をチェックする認定作業ができるはずがありません。そこで、都道府県や政令市に肩代わりをさせているのです。この雪印乳業は98年に認定を受けましたが、市当局に聞くとわずか3日間のハサップについての研修を受けた市保健所の食品衛生指導員が雪印側から書類にもとづいて説明を受け、厚生省は、この職員から説明を受け、肝心の認定権限のある厚生省の担当者は一度も雪印乳業の大阪工場に足を運ぶことも、その担当者から話を聞くこともなく認定してしまったのです。雪印が工場で黄色ブドウ球菌が検出されたと発表していたのは、余った低脂肪乳を戻す予備タンクのバルブ部分です。この部分は、週一回洗浄する規定になっていましたが、6月2日に洗った後、同23日まで3週間も洗浄されていませんでした。そのためにこのバルブの内側にできた乳固形物が菌の繁殖につながったと見られています。このポイントは専門家が見れば、重要な管理ポイントですが、雪印は意図的にはずしていました。そのことをハサップの知識に乏しい市の食品衛生指導員が見抜くことは極めて困難です。7日に大阪市の助役と面談した福島豊・厚生総括事務次官自身、「申請時に書かれていないものまでは市の立場としてはチェックが困難」と審査の欠陥を認めています。

−たいへんずさんな認定作業で「優良企業」のお墨付きを国が与えていたことはよくわかりましたが、それと大阪市が日常行っている食品の安全監視業務とは、どんな関係があるのですか。
立入り調査でチェックできない

 石川 そこが大問題なのです。このハサップというのは、企業の自主管理が原則です。企業側が自主的に重要管理ポイントを決め、自主的に点検し、それを継続的に記録する。市の立ち入り調査は、その自主的に記録した書類を審査することに主眼が置かれています。ですから認定の際に「重要管理ポイント」からはずれてしまうと、市保健所が立ち入り調査をしてもチェックできないで、事実上フリーパスになってしまうのです。今回の汚染個所はまさにその「重要管理ポイント」からはずれた「一般的衛生管理事項」だったがために、市が検査できず、3週間も洗浄されていないことをチェックできなかったのです。国はハサップの導入の際に食品衛生法を改悪して、ハサップ認定施設については、食品ごとの一律の製造基準の適用を除外することにしてしまいました。こうして、保健所の食品衛生管理が、ハサップ認定企業で逆に甘くなり、今回のような重大事態を招いたのです。

メーカー側が事実の公表を遅らせたことも、被害をいっそう拡大させましたね。
 
石川 そうです低脂肪乳を飲んだ人から異常を訴える苦情が同社や保健所に入ったのは、6月27日朝のことです。同28日午後には大阪市による工場の立ち入り検査をうけ、その夜には生産の自粛と製品の自主回収、それに社告の要請を受けています。ところが、同社が回収をやりだしたのは29日にずれこみました。大阪市の発表も29日の午後4時と、最初の被害届が出されてから丸2日たってからでした。

安全軽視の「規制緩和」破たん  市民の命・健康第一の市政を <下>

−メーカーの責任の重大性はもちろんですが、大阪市の対応はどうだったのでしょうか。
 石川 
私も委員会で追及したのですが、大阪市としては、証拠が不充分なのに発表すると、埼玉のように業者から損害賠償を求められるかもしれないという、考えが頭を過ったということが何人かの幹部の口から語られています。もしそうだとするならば、本当に市民の安全、命、健康を第一に考えていたのかどうか疑問に思わざるをえません。小さいお子さんが下痢と嘔吐で気を失うほどの重症になり、やっと退院したと思ったら、事態が知らされていないために、また雪印の牛乳を飲んで、もう一度入院するという、とんでもないことになったわけです。大阪市の29日夕方の発表は、「原因は調査中」としながら、雪印低脂肪乳を飲んだことによる食中毒症状の患者が発生したことを伝え、雪印に製造の自粛や製品の回収を指示しているという内容でした。その苦情は28日の午前の段階で大阪市に3件(13名)寄せられており、雪印に指示をしたのは、29日の深夜ですから、やり方によれば、もっと早く市民に警鐘を鳴らして被害の拡大を食い止められたかも知れません。私の質問に対して、市長も今後はもっと柔軟な対応を検討することを約束しました。

 認定施設を総点検し 衛生監視体制強化を

−日本共産党としては、食品の安全性確保のために、どういうことを要求しているのですか。
 
石川 第1に、市内にはあと3ヶ所のハサップ認定施設があります。ハサップの「安全神話」が崩れ、ずさんな認定や検査の不備が明らかになったのですから、認定施設の総点検がまず必要です。第2に、大阪市の食品衛生監視体制を強化することです。大阪市は1989年(平成元年)にそれまで別々だった環境衛生指導員と食品衛生指導員を統合しました。それによって、現場では指導員の専門性が弱まったと指摘されています。次々と新しい病原菌が発見されたり、ハサップ認定の審査も必要となるなど、担当職員の専門力量を高めることは急務です。また、その人数も1987年(昭和62年)の199人から今年は174人と25人も減らされています(環境衛生指導員と食品衛生指導員の合計)。対象となる施設が増えていますから、一人あたりの施設は100件以上も増えているのです。これでは食品の安全に責任をもった検査ができるはずがありません。実際、国の定めた基準からしても、その30lしか監視ができていないのです。 

 企業の自主性頼みで 国民の安全守れない
−販売店の営業も大変な事態ですね。
 石川  そうです。雪印が経営維持のために支払い猶予や代替製品のあっせんなど経営責任を果たすよう指導するとともに市として、無利子融資など関連中小企業の経営支援を強めることが必要です。また、市民の不安に答える相談窓口の設置なども要求していきたいと考えています。

− 今回の事件は、いまの政治とどう関わっているのでしょうか。
 石川 
やはり、自民党や公明党がすすめてきた、いわゆる「規制緩和」路線の食品衛生分野での破綻ではないでしょうか。企業の自主性頼み、「あなた任せ」の食品衛生行政では国民の安全は守れません。また、大阪市では、現市政と「オール与党」が保健所の統廃合や食品衛生の検査業務をおこなう職員を減らしてきたことも、今回の重大な事態を招いた要因の一つといえると思います。
 国や市が市民の安全に責任をもって、事業者にもきっちりした検査や指導を行うようにしてこそ、企業の自主的な努力とあいまって食品の安全が確保できるのではないでしょうか。
 市民の命・健康第一の市政の実現に奮闘したいと決意しています。