条例否定の根拠ない

大阪市の意見書に 「10万人の会」が見解

(しんぶん赤旗 2001年1月23日)

 大阪市に学童保育の制度を求める10万人の会は22日、大阪市が学童保育条例の条例制定は必要ないとした「意見書」の発表を受けて「学童保育条例案に対する『意見書』についての見解」を発表しました。
 見解は、大阪市議会を開催するための必要法定数を3.5倍以上も上回る141,133人の市民の署名に込められた要望を真っ向から否定するものであると市の態度を批判。
 そして、「市の『意見書』は『児童放課後いきいき事業』と『学童保育』の2事業をすでに行っていることを理由として『条例の目的は達成している』とし、『条例制定の必要なし』の結論を出した。条例の目的を達成しているのであれば条例の制定を否定する必要は全くない」と市が条例を否定する根拠のなさを示しています。
 また、学童保育が市の「意見書」で「自主的な取組」と表記されていることについて見解は、毎月20,000円近い保育料とバザーや事業活動など父母負担は大きく、日曜・祝日返上でバザー活動などを好き好んでしているのではなく、「大阪市に代わって」忙しい時間を割いてやっていること。また、法定事業としての学童保育は「公的」であって「自主的」ではないと述べています。
 最後に見解は、14万人を超える署名を生かし「子どもの権利条約の理念に基づく21世紀の子ども達の未来を切り開く施策の拡充、そして学童保育条例の制定」をあらためて大阪市長に求めています。

 大阪市に学童保育の制度を求める10万人の会は、22日の臨時市議会において磯村市長が提案した条例制定に対する「意見書」について見解を発表しました。
 
1 私たちは、学童保育事業が児童福祉法の放課後児童健全育成事業として法制化されたのを機に、地方自治体の法制化である「学童保育条例」の制定請求を大阪市に求めた。
 請求署名には大阪市会を開催するための必要法定数を3.5倍以上も上回る141,133名の市民が請求者に名を連ねた。
これは30数年間にわたって大阪市で育つ留守家庭のこどもたちの「遊びと生活の場」を豊かに育み、働く親の労働権を保障し続けた共同学童保育の拡充を願う幅広い市民の熱い声の結晶である。
大阪市は141,133名という市民要求を重く受けとめ、1969年より開始した「大阪市留守家庭児童対策事業助成要綱」を発展させる「学童保育条例案」の制定に向け施策推進に努めるべきである。
 しかし、大阪市長はその「意見書」で私たちが請求した「学童保育条例案」については「条例案の目的は達成されており、条例案による条例制定は必要ない」との見解を発表した。
141,133名の市民の請求に対する大阪市長の今回の「意見書」は大阪市民の学童保育条例案の制定を願う切実な要望を真っ向から否定するものである。

2 「意見書」の内容は、大阪市においては、児童放課後いきいき事業実施要項に基づき、その保護者が労働等により昼間家庭にいない児童を含むすべての学童児童を対象に、小学校の余裕教室を利用した「児童放課後いきいき事業」をほぼ全ての小学校で実施し、留守家庭児童にとってはその活動の場は適切な遊び及び生活の場となっている、としている。
さらに、放課後等に全ての児童の健全育成に鋭意取り組むとともに、児童放課後いきいき事業(こどもの家事業)補助要項及び大阪市留守家庭児童対策事業助成要綱に基づき、児童福祉法6条の2第7項に規定する放課後児童健全育成事業を実施するものに対し、所要経費の助成を行い、小学校に就学しているおおむね10歳未満の児童であって,その保護者が労働等により昼間家庭にいないものの健全育成のための事業推進を図っているところである、とした。
そして「意見書」は以上により、すでに大阪市においては、「児童放課後いきいき事業」を行っていること及び児童福祉法6条の2第7項に規定する放課後児童健全育成事業を実施するものへの支援事業を行っていることから、条例案の目的は達成されており、条例案による条例制定の必要はないとの結論を出した。

3 「意見書」はこれまでの大阪市の主張を含めたいくつかの矛盾をはらんでいる。まず第一に「児童放課後いきいき事業」に学童保育を還元することは誤りであることを「意見書」自らが確認したことである。
大阪市はこれまで「児童放課後いきいき事業」の中に児童福祉上の放課後児童健全育成事業を含むかのような主張を繰り返してきた。
しかし「意見書」では「条例の目的達成」の根拠として「児童放課後いきいき事業」と「児童福祉法6条の2第7項に規定する放課後児童健全育成事業(学童保育)」の二つを併記した。「児童放課後いきいき事業」だけでは「条例の目的達成」とならないことを「意見書」は明記したのである。
学童保育の固有な存在抜きには「条例の目的を達成した」とはいえず、このことは何よりも市長自らが学童保育の存在を通じて2つの事業の趣旨(目的)の違いを認めたことに他ならない。

4 第2に「意見書」は「児童放課後いきいき事業」と「学童保育」の2事業をすでに行っていることを理由として「条例の目的は達している」とし、「条例の制定必要なし」の結論を出した。条例の目的を達成しているのであれば条例の制定を否定する必要は全くなく、むしろ早急に自治体の責任を明確にした条例の制定に向けて鋭意努めるべきである。

5 第3に「意見書」では児童福祉法6条の2第7項に規定する放課後児童健全育成事業を実施するものへの支援事業(学童保育)を行っているから条例を達成しているとしているが、現実には未達成であるから今回の直接請求署名に至ったのである。「意見書」は私たちが示した「条例案」(施設確保や指導員の処遇問題など)の内容については具体的には何ひとつ対応することなく結論を導き出している。

6 さらに「意見書」では実態とは違った誤った表記が見られる。学童保育事業に対して「自主的な取り組み」とあるがこれは不正確である。毎月2万円近い保育料とバザーや事業活動など父母負担は大きい。自ら好んで日・祝日返上でバザー活動に父母は勤しんでいるのではない。学童保育を支えるために「大阪市に代わって」忙しい日々を営んでいるのだ。また第2種社会福祉事業として国庫補助が支弁されている学童保育を「自主的」という言葉で片付けてよいのだろうか。法定事業としての学童保育は「公的」であって決して「自主的」ではない。
 「意見書」は「児童放課後いきいき事業」が「留守家庭児童にとっては、その活動の場が適切な遊び及び生活の場」と規定している。その根拠に2000年4月に新しく「児童放課後いきいき事業内留守家庭児童健全育成事業実施運営規定」(別紙参照)を作成した。
しかしこれは事実に反する。あたかも「運営規定」の作成によって留守家庭への特別な対策がとられたかのように装っているが実態は何ら変わっていない。「運営規定」策定後も教育委員会の「いきいき」担当者は「従来のいきいき活動と何ら変わらず運営規定を市民に説明する必要はない」と発言しているように「児童放課後いきいき事業」は留守家庭児童の「遊び及び生活の場」を保障するものにはなっていない。

7 「意見書」は最後に大阪市長として「大阪市児童健全育成計画(なにわっ子すくすくプラン)」に基づきながら児童の健全育成のための事業の充実及び発展に努めていくことを表明した。
学童保育条例案の制定を否定した大阪市長ではあったが、ここでも大阪市長は現行のこども施策がまだまだ不十分であることを認めている。安上がりで貧困なこども施策を改め14万人を超える署名を本当に生かし、こどもの権利条約の理念に基づく21世紀のこどもたちの未来を切り拓く施策の拡充、そして学童保育条例の制定を改めて大阪市長に要望するものである。

                   大阪市学童保育条例制定請求代表者
                      藤永 延代  (団体代表)
                      平井 正也  (医 師)
                      村田 浩治  (弁護士 )
                      沢田 佳宏  (医 師)
                   大阪市に学童保育の制度を求める10万人の会代表委員
                      大川 真郎  (弁護士)
                      高橋  宏  (団体役員)
                      二宮 厚美  (大学教授)