実施から5ヶ月、見えてきた大阪市介護保険の問題

石川かんじ市会議員に聞く

(しんぶん赤旗 2000年9月19日)

    介護保険の実施から約5ヶ月が経過しました。来月(10月)からは1号被保険者の保険料徴収もはじまりますが、大阪市での介護保険の実態はどのようになっているのでしょう。

        まず、65歳以上の1号被保険者ですが、平成12年度の(2000年度)の見込みが437,056人に対して、7月現在で442,559人で、ほぼ予想通りの数です。要介護認定者数は、59,686人の見込みに対して、同じく7月現在で45,939人(見込みの77%)ですから、市当局は、見込み数を超えると予想しているようです。

 この間、浮かび上がってきた問題点は、どのようなことでしょうか。

    まずなによりも、重大な問題は、介護を必要とする人が実際には必要な介護サービスを受けられていないということです。大阪市が7月21日から、8月11日までの間に居宅サービス計画の依頼届書を区に提出している利用者3000人を無作為に抽出して、居宅介護サービスの実態調査を行い、2055件の回収がありました。その結果を見るだけでも一目瞭然です。「現在介護サービスを利用しているか」という問いに対して、利用しているが78.8%に対して、利用していないが12.5%もあります(表1)。要介護認定を受けながら、居宅サービス計画の依頼届書を区に届けず、施設にも入所していない人が5,416人、認定者数の12%おられますから、介護認定を受け、サービスが受けられるのに、実際には何のサービスも受けていない人が少なくとも2割以上おられるということになります。

その原因はなんでしょうか。

        市の調査で、介護サービスを受けていない人に理由を尋ねたところ、「介護サービス利用の必要性を感じていないから」が26.8「必要性は感じるが利用料が高いから」が12.8%という結果なっています(表2)。居宅サービス計画の依頼届書を区に提出したということは、介護サービスを受けようという意思があるからで、「介護サービス利用の必要性を感じていないから」という回答が多くあることは、民間営利企業を参入させたことによって、業者による老人の囲い込み競争が、つまり客取り合戦が激しくやられた結果という指摘もあり、分析が必要です。しかし、介護サービスを受けていない大きな理由が利用料金の高さにあることは明らかです。サービスを受けてる人に対する利用料金についての質問では、66.4%の人が介護保険が始まって支払う利用料金が増えた(表3)、43.3%の人が支払う利用料の担感が大きい、やや大きいと答えています(表4)。

 

 

 

 

 

                

          また、要介護度ごとのサービス限度額を設けたことが、必要なサービスを受けることを妨げる要因になっていますが、その不充分な限度額さえ、利用者は利用していません。市の調査では、上限まで利用している人はわずかに22.3%ですが(表5)、その理由も「利用料が高い」が24.3%と、大きな要因になっています(表6)。

 

 

 

 

    

 

                                                           

       また、「介護保険制度自体の困りごとや不満は」という問いに対する答でも、一位はダントツで「介護サービスの利用料」、ケアマネージャーが利用者・家族から不満・苦情を言われる第一位も「利用料負担額が高い」です(表7)。このように、高い利用料負担に市民の不満が集中し、それがサービスの受給を妨げている、円滑な介護保険の実施のためには、どうても利用料金の軽減策を取る必要があるというのが、実施後5ヶ月で、大阪市の実態を通じて見えてきた、介護保険の第一の問題点ではないでしょうか。

 その上に、来月からは保険料徴収もはじまるのですね。

       そうです。介護保険が実施されて、保険料を徴収されるのに、利用料金が高すぎて、サービスが受けられない、実施前より、利用料負担が高いとなると、ますます、なんのための介護保険か?となることは間違いありません。日本共産党は、介護保険前からホームヘルプサービスを継続して利用してきた低所得者に限って実施している利用料金の3%への軽減策を在宅サービス全体に広げること、低所得者への保険料を免除することなどを緊急対策として要求してきましたが、そのことの必要性が、大阪市の調査でも裏付けられたのではないでしょうか。

 なぜ、こんな事態になったのでしょうか。

       なによりも国が介護保険の実施に際して、国庫負担を大きく削減させたことです。下の表8から明らかなように、従来は、介護のための費用は利用者の自己負担をのぞいて、国が50%、大阪市が50%の割合で負担していました。ところが、介護保険の実施でこの負担が大きく変わります。国は25%へ半分に、大阪市は12.5%へなんと4分の1に軽減されるのです。その額は大阪市だけで約73億円にも上ります。いま、日本共産党は半減した国の負担割合を元の50%に戻すことを提案しています。今年度の大阪市予算で保険給付に係わる国の負担金は、167億6500万円ですから、これが2倍になればどれだけのことができるか?今年度の利用者負担額は推計で約94億円(費用見込み936億円の約10%)、1号被保険者の保険料が42億円(今年は円滑導入のため、4分の1の保険料金なので、通常なら4倍の168億円)ですから、利用料金と保険料(1号被保険者の通常分)の64%が減額できるのです。

営利企業の介護保険への参入がどのような影響を与えていますか。

      大阪市は、国に追随して、公的介護サービスの撤退をすすめ、社会福祉協議会に委託してきた介護事業からの撤退を決め、900名のヘルパー全員を他事業への転換や、希望退職で削減しようとしています。また、800名もの方が利用していたデイサービスも廃止してしまいました。そのことの影響が、先の市調査の結果にも現れています。「介護サービスの提供者の困りごとや不満の理由はなんですか」という問いに対して、第一位は「介護などの専門技術」でした。ほとんどがパートタイムの登録ヘルパーの民間営利企業では、介護の質に利用者が不満を持つのは当然だと思います。

 営利企業の代名詞のように言われてきた「コムスン」の大幅な事業縮小が話題になっていますが。

      大阪市でも、居宅サービス事業者のうち、採算性の「見通しがある」と回答したのは、わずか12.1%にすぎません(表9)。

 

 

 

 

 

   

   営利企業ですから、採算が合わなければ、撤退するのは、当然考えられることです。低い介護報酬に大きな問題があることは、当然ですが、営利、採算性最優先の営利企業依存では、必要な介護サービスの提供に大きな支障が出ることは、これらのことから明らかではないでしょうか。それだけに、大阪市に対しては、公的介護からの撤退を白紙に戻すことや、営ではない、NPOや生協など、非営利団体への援助を強、位置付けを高めることを要求していきたいと考えいます。

 特養老人ホームなど施設面はどうでしょうか。

        介護保険がはじまって、特養ホームへの入所が、いままでの福祉事務所による「措置」から、個々の市民とホームとの契約に変わったために、いったい入りたいのに入れない「待機者」が何人いるのかを、大阪市は掌握していません。介護保険実施時に待機していた3800名近くの人については、追跡調査を行うということですが、4月以降に入所を希望した人も含め、被保険者のニーズを的確につかんで、必要な施設の整備を求めていかなければなりません。それ以外にはまだまだ問題は山積みです。しかし、「介護サービスを利用してよかったことはありますか」という問いに対して、「家族の介護負担が減った」49.5%、「引き続き在宅生活を送れるようになった」31.5%、「本人または介護者の外出の機会が増えた」という回答があり、介護サービスの必要性・有効性は明らかです。それだけに、誰もがお金の心配なく、安心して、必要な質の高いサービスが受けられる介護保険に改善するために、日本共産党議員団として、市民のみなさんとごいっしょに全力で奮闘したいと決意しています。