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大阪市 生活保護費のカード支給の問題点

生活の自己決定権を侵害・カード会社のもうけ口に

花園大学教授吉永純さんに聞く


 大阪市は生活保護費の一部をプりペイドカードで支絶するモデル事業を実施するとしています。“全国初”と宣伝してますが、多くの反対の声が上がっています。問題点は何か。公的扶助論が専門の吉永純花園大学教授に聞きました。 (岩井亜紀)


 大阪市は、金銭管理等の支援を必要とする人、とりわけ単身高齢者や、ギャンプルや過度な飲酒で生活費を使い果たしてしまう人への生活支援として、プリペイドカードで家計管理などの支援をするといいます。しかし単身高齢者のほとんどが保護費の範囲内でつましい生活をされており、金銭管理に問題がある人はまれです。

金銭給付が原則 

 そもそも保護費は金銭給付が原則です。これは、保護費をどのように使うかは各世帯がその必要に応じて使ってこそ生きたものになり、これを高度な商品,社会である現代社会で保障するには金銭給付が適切であることから認められたものです。つまり、金銭給付によって「生活の自己決定の原則」が保障されています。管理を目的とするプリペイドカードはこの原則に反します。

 生活保護を利用しながら父親が積み立てた学資保険の満期保険金の一部を収入として認定され、取り上げられたことで福岡市の姉妹が提訴しました。この中嶋訴訟で福岡高裁は1998年、生活の自己決定権があるとして、生活保護法の趣旨に反しない限り、自由に保護費を使えるとした原告勝訴の判決を出しました。

 プリペイドカードはこの判決に反し、カードによる福祉事務所の管理は自己決定権を侵害するものです。

 プリペイドカードは、使用可能な店でしか使えません。高齢者の多くは近所のなじみの店で必要なものだけを買う傾向があります。これらの店ではカード利用は不可能です。また、保護利用者がやり繰りのために使うリサイクルショップやディスカウントショップでの使用が可能かも不明です。地域の商店による「見守り」もできなくなるし、利用者に不便を強いるだけです。

 カードを使えば、買い物のたびに保護利用者だということがわかります。保護利用者は、カード利用で常に監視されると感じる恐れがあります。生活保護バッシングの影響のため、必要であるのに保護利用にいたらないケースが非常に多くなっています。カード導入で、生活保護が最後のセーフティーネットであるにもかかわらず、必要とする人をますます遠ざけてしまう懸念があります。

家計支援に逆行

 家計支援といいますが、プリペイドカードはその手段にならないし、むしろ逆行です。現金なしで買い物ができるカードの方が無計画な買い物ができてしまいます。依存症の場合は、管理の強化ではなくむしろ、専門家による支援が必要になります。

 家計支援は、本人が家計建て直しの必要性を自覚しないとうまくいきません。厚生労働省の「家計相談支援事業の運営の手引き(案)」(2014年9月26日)には、「相談者自らが家計を管理しようとする意欲を高めていくことを目指す」とあります。管理ではなく、きめ細かくていねいな長期にわたる支援が求められるのです。

 プリペイドカードの支給は、必要性もなく、支援の上でも有効ではなく、結局、保護利用者を萎縮、保護が必要な人を生活保護から遠ざけ、カード会社のもうけ口を拡大するだけです。行政と企業が結びついた貧困ピジネスになる恐れがあり、認められません。


カード支給中止を全生連など声明

 大阪市が生活保護費の一部をプリペイドカードで支給すると発表したのを受け、関係団体が28日までに、中止を求める声明を発表しました。

 全国生活と健康を守る会連合会(安形義弘会長)は2月24日の声明で、プリペイドカードによる支給は生活保護の「金銭給付の原則」に反すると批判し、保護利用者の生活支援には有資格のケースワーカーの充足こそが求められると強調。プリペイドカードによる支給が児童手当や老齢年金など他の公的給付に拡大される恐れがあるとして、「国民全体に関わる重大な問題」だと指摘しています。

 日本弁護士連合会は27日、村越進会長声明で、カード会社が大阪市のモデル事業実施後に全国展開をすすめると表明していることにふれ、「単なる一自治体の問題として軽視することはできない」と強調しています。


 大阪市のプリペイドカード

 生活保護費の3万円分をカード会社のプリペーイドカードで支給するというもの。2月から希望者を募り、準備が整い次第開始するといいます。約1年のモデル実施の検証を踏まえ、「特定業種に対する使用制限や1日当たりの利用限度額を設けるなど機能追加の検討を行い、本格実施」につなげるとしています。

(2015年3月1日付しんぶん赤旗)