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市議団の実績

維新の会が提案した「大阪市教育基本条例案」に対する

井上議員の反対討論

井上ひろし市会議員

2011年9月30日

私は日本共産党大阪市会議員団を代表して議員提出議案第41号「大阪市教育基本条例(案)」に反対の討論をおこないます。

 本条例案の最大の問題点は、「教育に民意を反映する」として“政治の多数決原理”により、教育内容への政治的支配を可能とする点であります。

 教育は、何よりも、こどもの成長・発達のためにおこなわれるものであり、憲法と教育の条理に立脚しておこなわれるべきですが、“政治の多数決原理”を持ち込もうという発想は、一時的とは言え、現に議会で多数を占める政治集団による、傲りと不当な支配の何者でもありません。

 政治の教育への関与は「抑制的」でなければならないという歴史の教訓と反省は、かつての教育への政治介入と統制による戦前の軍国主義教育と侵略戦争の歴史を振り返れば明らかです。しかし、歴史の教訓と反省をまったく踏まえない本条例案には、一片の道理もありません。

以下具体に、問題点を指摘します。 

 第一に、本条例案は、学校と教育委員会にたいして特定の教育目標や教育政策を押しつけることで、教育委員会の役割を弱め、市長の権限強化を図ろうとするものであり、憲法に保障された教育の自由と自主性を踏みにじるものであるからです。 

市長が、教育目標を定めて、上から学校に押しつけ、“教育委員が目標を実現する責務を果たさない場合、罷免できる”などというのは、教育への「不当な支配」そのものです。教育目標は、市民と保護者の願いに基づき、教育の専門家である教職員が、その学校のこどもの実態に即して設定すべきであり、その際、教育内容の大綱的基準による指導・助言をおこなうことが、教育行政としての専門性をもつ教育委員会の役割なのであります。 

 教育委員会制度は、戦後の憲法・教育基本法の具体化の一つとして確立されたものです。この中で、教育行政は、一般行政から独立し、その任務は、教育の自由と自主性を尊重しつつ、教育の基礎を支える諸条件の整備確立をおこなうとされました。このことからも、教育委員会の教育行政における任務・役割は、今日においても、重要な意義をもっているのです。なお、本条例案制定の根拠にあげる「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」第25条は、教育委員会と首長が条例や規則等に基づいて、教育に関する事務を執行できると述べています。しかし、これは、条例によって首長の権限を自由に拡大してもよいというものではなく、首長が教育内容について決定・介入してもよいという規定でもありません。これは、意図的に条文の一部を取り出して解釈を歪めたものであり、およそ議会の審議にも耐えないこじつけであります。 

 第二に、本条例案は、校長と副校長の公募と任期付き採用などを打ち出していることです。校長は、教頭と協力して、教育の専門家として学校教育にかかわり、教職員への指導・援助をおこない、こどもの教育を受ける権利、成長・発達を保障する教育条件整備を行政職員と共におこなうなど、学校管理職として重要な任務をもっています。それだけに、校長には、教育の専門家としての力量と資質および経験が求められており、本条例案が示す人事方針は、校長の重要な役割からみて、あまりにも軽はずみな空論という以外にありません。 

第三に、本条例案は、教育現場に管理と統制、競争を迫り、こどもの成長・発達を妨げるとともに、教師の人間としての尊厳を否定するものであります。いっせい学力テスト結果の市町村別公表に加えて、学校別公表が強行されれば、学校が序列化され行き過ぎた競争教育が、いっそう激化されることが危惧されます。こうした競争的な教育制度は、世界の中でも異常なものです。国連こどもの権利委員会は、日本政府にたいして」高度に競争的な教育制度」がこどもの発達にゆがみをもたらしており、「学校システム全体を見直すこと」を勧告しました。こどもの成長・発達のためには、こうした競争的な教育制度を是正することこそ必要です。 

本条例案には、「この条例は、市の教育に関する最高規範である」という条項があります。「最高規範」であると宣言することによって、あらためて、教育に対する支配と教員にたいする統制を強める意思を表明したものです。しかし、いくら、最高規範といっても、現行の憲法や教育基本法の下で、これに適合するように運用されなければならず、憲法と法律に反する条例は無効なのです。 

わが国の最高規範は、憲法です。憲法が最高規範とされる実質的根拠は、憲法が人権保障を内容とする規範である点に求められます。これにたいし、本条例案は、人権保障を内容とするものではなく、むしろ、教員の人権を著しく制約して管理統制に服せしめるというものです。このような条例案が最高規範とされるべき実質的根拠は、まったくありません。 

以上、3つの点で問題点を指摘しましたが、大阪府の教育委員からも「本当に教育現場の課題をふまえているのか」「全員で総辞職するしかない」などと、一様に不信感をあらわにし、知事自身が任命した委員を含む5人全員が反対を表明したように、本条例案の問題点は、誰の眼にも明らかであります。

 本条例案には断固反対であることを申し上げ討論といたします。