大阪市同推協 同和地域優先の恐れ
意見具申審議 渡司議員が指摘
 大阪市同和対策推進協議会(同推協)が26日開かれ、「大阪市における今後の同和行政のあり方について」(意見具申)を審議しました。日本共産党の渡司 考一市議が発言しました。
 渡司議員は意見具申案で「同和対策事業の終了」、「個人給付的事業について廃止」を挿入したことは当然、とのべました。「基本的な施策の方向」の中で「一般施策に工夫を加える」とあらたに挿入したことについて、総務省地域改善対策室文書でも「同和地区、同和関係者に対象を限定しない通常の施策のこと」としており、「工夫」が同地域、関係者に優先適用の危険があり、そのことは行政の公正性、公平性を失いかねないと指摘。そして、同和問題について行政がおこなうべきことはもはや残ってないのであって、「基本的な施策の方向」全文を削除すべきであり「一般施策に工夫を加える」などの挿入などは納得できないと主張しました。
 渡司議員は、一般施策の「優先適用」の事例として、地区住宅問題で西成区長橋の市有地を定期借地権で利用した「持ち家施策」が実施され、7戸が完成していることを示し、意見具申案でのべられている「持ち家施策を視野にいれた対応」がすでにおこなわれていることを批判しました。
 渡司議員は、同案が「大阪市同和事業促進協議会(市同促)」についてふれた点で「同和問題解決のための施策をはじめとする」を挿入した点について、同和問題解決のための施策は終了するのだから大きな矛盾であると指摘。乱脈と不公正の最大の原因は行政の主体性放棄と「市同促・地区協」方式であることや、市同促はもともと同和事業とのかかわりで生まれたものであり、同和対策事業の廃止にともなって行政がこれ以上の支援をすべきではないと意見をのべました
    「大阪市における今後の同和行政のあり方について(意見具申案)」
                         についての意見書
                            2001年10月12日
大阪市同和対策推進協議会
会長   山本 登 様
    日本共産党大阪市会議員
                   大阪市同和対策推進協議会委員  渡司考一
はじめに
 部落問題の解決とは、旧身分のいかんを問わずすべての人間の平等・同権を確立し、部落内外の住民が社会生活においてわだかまりなく人間的連帯を広げ、差別を受け入れない圧倒的な社会的世論を築くことです。私たちが早くから指摘してきたように今日、生活環境や教育、就労などで部落内外の較差の解消が進み社会的交流も進展しています。この結果、政府も同和特別法の終了と同和事業の終結を決定したところです。
 今回の意見具申は1969年「同和対策特別措置法」が施行されて以来、32年間にわたり自治省報告決算額ベースだけでも約1兆2000億円を投じて実施されてきた同和行政を全面的に総括し、到達点を明確にし、政府文書でもくりかえし指摘されている行政の主体性放棄による同和行政のゆがみを是正する課題や、大阪市の乱脈と不公正の実態と原因の究明、同和行政の終結を求める意見具申を本協議会が行うよう強調するものです。
 今回の意見具申案はこうした点にまったくふれておらず、そればかりか「教育・啓発や就労などの面では、なお課題が残されている」とし「部落差別が現存する限り、同和問題の解決に向けた取組みを積極的に推進していく必要がある」と人権行政の名による施策のさらなる実効を求め、受け皿として「市同促・地区協」が名称をかえて機能を発揮すべきとしている点は重大です。
 また「一般施策での対応」とは一般施策を地区住民に優先的に適応するという事ではなく、特別対策として実行してきた成果(中学校給食等)を可能なかぎり全体の福祉の向上に資する施策として実施する方向での努力がもとめられます。
 憲法のかかげる平和と人権、民主主義の諸原則を政治とくらしに生かすことが切実に求められています。私は部落問題の解決すなわち国民融合の実現も、憲法の理念を具体化することで実現することができると確信するものです。

部落差別を拡大再生産させる同和行政のゆがみの実態と解決の方向

 市民から「逆差別だ」と批判されてきた様々な施策が、教育、住宅など広い分野で継続されている問題について指摘しておきます。
 意見具申案では「生活環境をはじめとした較差は、今日、ほぼ改善されるとともに、かっての生活環境の劣悪さが差別意識を再生産するような状況は基本的に解消」されたと述べ「現行法期限をもって同和地区および同和地区住民に限定した特別措置としての同和対策事業は廃止すべき」であると明記しています。
 したがって、現在実施されている特別対策は、原則的に廃止集結されるべきです。
 教育の分野でみると具申案は「自立と自己実現を支援し、一人ひとりの児童を大切にする教育の推進」を理由に、特別の扱いを残すよう示唆しています。今日、同和教育推進校への教職員の特別な加配の実態は、例えば生徒数146名で養護学級数を含め7学級である中央区の南中学校の教職員が21名であるのに対し、同和推進校である同規模の矢田南中学校では生徒数130名に対し、8名の給食調理員を含め教職員は47名の配置、小学校の例をあげれば、一般校である豊崎小学校は生徒数140名、教職員は17名、同和推進校の大国小学校は生徒数143名、教職員は26名。こうした実態を市民にはとうてい納得しがたい事です。
 いま、求められているのは、大阪市全体で本年度でも200名を越える同和加配を見直し、全市的視野から教育困難校に対する公正な教職員の配置を行なうことです。
 高校・大学奨学金についても、高校進学の場合、月額で公立2万3千円・私立4万3千円、大学の場合は公立4万8千円・私立8万2千円が、その他に入学支度金として高校で学校納付金プラス7万円、大学では学校納付金プラス8万5千円が支給されている。この特別貸付制度などを一般対策の中にそのまま残すことは、特別扱いを継続することに他ならず、市民が求める公平性の原則に照らせば廃止は当然であり、教育費の高騰になやむすべての市民に対する施策がのぞまれています。
 保育行政についても、教育の分野同様の職員の過配があります。
過日の協議会でも指摘をしましたが、同和保育所である両国保育所は48名の子供たちのために19名の職員が配置されているのに対し、同じ旭区内の清水保育所では110名の子供に17人の職員配置となっています。こうした異常な職員配置はこの際見直し、幼児の複数担任など、すべての保育士、子供たち、保護者の期待にこたえられる職員配置を行なうべきです。
 保育料についても特別の減額措置がつづけられており、昨年(1999年)に始まった「廃止に至る経過措置」2006年まで継続されることとなっています。原則廃止の立場で再検討するのは当然であり倒産、失業などで保育料が払えなくなった保護者に対する保育料の減免措置などが必要です。また入所にあたっても同和地区住民にあっては希望者全員受入れ、その後、地区外よりの受入数を決めるという措置も市民には理解されない事です。
 こうした状況を改めるためにも、「大阪市同和教育基本計画」や「大阪市同和保育基本計画」の廃止を明確に示すことです。
 同和向け市営住宅は9466戸中、空き家が1055戸ときわめて異常な状態です。それにひきかえ一般の市営住宅は本年7月におこなわれた入居者募集では、特定賃貸住宅など家賃の高い公営住宅をのぞけば平均30数倍の高倍率となっており、個別でみると旭区の高殿北住宅が一戸の募集に346人が応募したのをはじめ、高殿西住宅が143倍、清水住宅が96倍、城北住宅(大宮5丁目)が70倍とエレベーターのない4、5階部分をのぞくと軒並み100倍前後の高倍率となっています。最近では単身者の住宅申し込みも増えてきていますが、城東区の単身者向け今福南住宅は612倍と気の遠くなるような状況です。一刻も早く同和向け市営住宅空き家の一般公募に踏み切るよう求めるべきです。
 こうした「逆較差」の背景には行政が責任をもって管理を怠ってきたことと、地区協まかせにしてきたことにおおきな要因があります。「持家施策を視野に入れたさまざまなニーズに対応した、若者から高齢者までが住み続けられるまちづくりの施策の推進」(具申案)を同和地域だけで実施する事は「逆較差」をますますひどくするものでおこなうべきではありません。
 また、同和浴場の建て替えに莫大なお金を投入したうえでさらに水道料金減免をおこなうことや、芦原病院への運営助成と整備費が、毎年6億1500万円もの巨額が計上され、この上に特別貸付金を約4億円上積みし、都合、10億円以上にものぼっています。しかもこの特別貸付金は、予算計上もされておらず、このことを指摘された理事者は、正式に謝罪したものの、なおこれからも助成を続けるというひどさです。
 ちなみに、この浪速医療生協という法人が経営する一民間病院に、1971年以来、29年間の補助金支出が136億円、貸付金は特別もあわせ118億7800万円にのぼるものの、まだ1円も返済されていないのであります。到底、市民の理解はえられません。

「同和問題の解決へ向けた実態等調査」について

 意見具申案では実態調査から「結婚や就職等に現れる根深い差別意識」としていますがはたしてそうでしょうか。
 いわゆる被差別体験では「差別を受けたことがある」者は22.8%としています。高い率のようですが、「体験時期が過去10年以内のもの」は総数2903人のうち262人、9.0%であり克服されつつある課題である事を示しています。
 結婚の問題では婚姻類型別構成比では、「夫婦とも同和地区出身」が17.8%、「一方が同和地区出身の夫婦」が32.6%、「夫婦とも地区外出身」が34.1%で、その他不明が15.6%で地区外出身と見られます。年齢別に見ると、若い年齢層ほど地区内外の比率が高い傾向にあり、若い世代では、約7割の夫婦が同和地区内外の結婚であり、30歳未満ではともに同和地区出身の夫婦は1割程度となっています。
 婚時期別構成比では、「結婚の時期別に見ると、『夫婦とも同和地区出身』の夫婦の比率は年々減少し、それに反比例する形で『一方が同和地区出身の夫婦』の割合が増加している」としています。このことは否定できない事実であり、市の調査も認めている。1991年以降の時期の結婚では、「夫婦ともに同和地区出身」はわずかに12.3%となり、急激に減少し大きく解消されています。
 高校中退者が多いとされていますが、これは同和問題ではなく高校教育のあり方の問題です。就労についても同じで完全失業者で約340万人、仕事につきたいが仕事がなくあきらめた「失業者」が総務庁の調査で完全失業者以外に450万人ほど存在する事を考えると、国や、地方自治体が、個人消費をのばす本格的な景気対策や、雇用対策なしには解決しない問題です。
 介護保険について発生している問題は制度上の問題があり同和地域だけにかぎられた問題ではありません。特に保険料や、利用料が高すぎて、本市でも2000年度の予算で約800億円の給付予算のうち200億円も実行されないという実態があります。つまり、利用者が10%の負担にたえられずサービスをうけられない、こうした改善を市や国に対して求めていくことこそ必要です。
 他に実態調査では「情報較差」が指摘されていますが具申案もふれているように地域の高齢化やなどを考慮にいれると大きな較差があるとはいえません。不動産の購入については不公正乱脈な同和行政で同和と一般のあいだに垣根をつくってきた事が大きな要因であり、交通至便や日常生活、買い物などの利便性なども要素としては考えられる事です。
 実態調査報告書からみても較差が解消し、部落の実態そのものが解体し、もはや行政上の課題がないことを立証しています。
 なお同調査では同和地区に対するイメージ調査もおこなっており「こわい」というイメージを持つ人が40%にものぼると報告されています。
「同和問題はこわいもの」という風潮が1970年代から広がり、部落内外の民主的交流と民主的土壌づくりに役立つ融合を阻害してきた主たる原因は「差別糾弾」の結果だと言えます。
部落解放同盟(以下「解同」)によって今日まで進められてきた多数の「差別糾弾」の実態は、自分に都合の悪いもの、気に食わないものは全て差別だとする恣意的な判断にもとづき、市民の人権・人格を無視して拘束したうえで「解同」の言い分を受け入れるまで「確認」をするというものでした。こうした「確認」は内容が理不尽であるとともに、方法も多数をたのんで脅迫・恫喝によって屈服させるという法治国家では許されない私的制裁以外の何物でもありませんでした。
こうした糾弾行為は市民に向けられただけでなく、教育の場である学校や司法の場である裁判所など社会全体にも向けられました。
1969年におこった矢田事件は「解同」の「差別糾弾」が公然とはじまった事件であり、糾弾の本質をはっきり示したものでした。
当時の大阪市教組支部役員選挙の挨拶状を差別文書と言い掛かりを付けた「解同」は、授業中の学校から教員を暴力的に連行して十数時間の糾弾を行いました。被害を受けた教員の提訴で「不法逮捕罪」の刑事事件となりました。判決は「解同」側の敗訴となりましたが、この事件を審理した大阪地方・高等裁判所の法廷は差別糾弾なみのやじと怒号で審理ができなくなるという異常事態もおこりました。このような「解同」による糾弾が部落問題解決に必要な自由な意見交流を妨げる大きな障害になってきたことは明らかなことです。
 注目すべき事は、差別の原因について「同和地区だけに特別な対策をおこなうから」が49.1%にものぼる事や「差別にたいする将来展望の状況」では就職、結婚、排除行為、見下し意識、どれをとっても約70%以上の人が「将来なくすことができる」と答えております。また「差別は人間として最も恥ずべき行為」とする人が、85.8%にのぼる事などを考慮すると、ゆがんだ同和行政の終結こそが部落差別をなくしていく大道である事が調査報告書からも読みとれるのではないでしょうか。

「基本的な施策の方向」について

 意見具申案は「根深い差別意識の解消に向けた人権教育・啓発の推進」とのべ同和問題が人権問題の最重要課題として位置づけられていますが、同和問題を特別視すること自体、同和対策事業の廃止、一般施策への移行が進められている中で、疑義と違和感を呈せざるを得ません。
 そもそも、人の意識とは内心の自由の問題であり、誰であれ、それを問題視したり、行政が強制的に意識を変革するために「啓発」する等ということは、内心の自由との関係で大いに問題であるといわざるを得ません。だからこそ「大阪市人権尊重の社会づくり条例」第3条の規定の適用にあたっては何人も市民に強制してはならないと附則がつけられたのです。
 また、基本的人権の尊重は日本国憲法に高らかにうたわれており啓発活動は行政が市民に押しつけるものではなく、市民の自主的、自発的な活動の積み重ねをつうじて実現されるものだと思います。
 施設活用については人権文化センター、青少年会館などについて本市の各区にある区民センターなどの貸し館業務中心とし、職員数についても精査しみなおすよう求めるべきです。
 また、同和地区にある問題をすべて行政の特別課題とし特別扱いの継続を主張するものになっている点については改めるべきです。

<関係団体の今後のあり方について>

 「市同促・地区協」「関係公益法人等」については、同和対策事業の実施協力団体としての役割は終えることになったのですから、今後大阪市はいっさい関与すべきではなく、また市の補助金やその他の支援など、行なうべきではありません。
 いうまでもなく乱脈と不公正の最大の原因は行政の主体性放棄と「市同促・地区協」方式です。これはもともと同和事業とのかかわりで生まれたものであり同和対策事業の廃止にともなって当然廃止されるべき性格のものです。行政はすべて行政当局の主体性、責任において公平に施策をすすめなければならないという地方自治法の大原則に反するものです。
 このようなシステムがのこされる事は行政がいままでつくってきた「同和」の垣根を今度は「人権」の垣根にかえ、差別の解消につながるものではないということを指摘しておきます。
 「大阪市同和対策推進協議会」は同対審答申にもとづき「同和対策の推進に係わる重要事項の調査、審議及び市長に対する意見の具申や提言」を行なってきましたが、「同対審」の歴史的役割は終えたのであり当協議会も解散すべきであると考えます。

おわりに

 本年1月、「今後の同和行政について」(総務省地域改善対策室)と題する文書が発表されました。この中で、「平成13年度末に地対財特法の有効期限が到来することにより、特別対策の法令上の根拠がなくなることから、平成14年度以降同和地区のニーズに対しては、他の地域と同様に、地域の状況や事業の必要性の的確な把握に努めた上で、所要の一般対策を講じていくことによって対応」すべきであると述べています。この一般対策とは「同和地区・同和関係者に対象を限定しない通常の施策のこと」です。「同和地区を取り巻く状況は大きく変化」し、「特別対策をなお続けていくことは、差別解消に必ずしも有効では」なく、「人口移動が激しい状況の中で、同和地区・同和関係者に対象を限定した施策を続けることは実務上困難」な混住がすすむ状態が本市の調査によっても立証されたと言えます。また同文書は地対財特法の有効期限到来という中で地方単独事業についても「更なる見直しが強く望まれる」としています。同和行政終結はもはや押しとどめることの出来ない大きな流れとなっています。